沖田の言葉は、この空のよう

沖田の言葉は、この空のように冷たくなった心に温かく染み入る。

 

……駄目では、ないです」

 

 桜司郎は顔を少しだけ歪めると、沖田の目を見た。沖田先生、と呼び掛ける。

 

「何があっても、https://cutismedi.com.hk/expert/13/%E9%81%A9%E7%94%A8%E9%83%A8%E4%BD%8D%E5%8F%8A%E5%8A%91%E9%87%8F お傍に居させてくれますか」

 

 人を斬った時の、血が煮え滾るような感覚。自我を失い深い闇に飲み込まれていくような恐怖。あれが続けば正気を保つことはできないだろう。そして記憶を取り戻した先に明るい未来があるとも限らない。

 

 まるで心中が分からない問い掛けだが、沖田は迷わずに頷いた。

 

「ええ。貴女は私の大事な弟分ですよ。名を分けたくらいですから」

 

……有難うございます。弱音を吐いてしまうなんて、情けないですよね。名に恥じぬ働きをしてきます。身命を賭してでも、近藤局長をお守りしますから」

 

「よろしくお願いします。よくお守りして下さい」

 

 

 桜司郎はその言葉に、柔らかく笑う。沖田は守れと言っておきながら、少しだけそれを後悔した。その性格的に本当に命を落としてでも前に出ようとしかねない。だが、組長という立場がある以上は、そのように言うしか無かった。 やがて訊問使へ随行する隊士の選定が終わり、いよいよ発つ日となった。

 

 季節はすっかり冬となり、明け方は一際冷える。まだ日が見えぬうちに目を覚ました桜司郎は周りの隊士を起こなさいように、身を起こした。

 

 そして旅支度の最終確認を行っていると、隣で寝ている沖田からされているような声が聞こえる。それに耳を澄ますと、"桜司郎"と自分のことを言っていた。何の夢を見ているのだろうかと思いつつ、起こすか迷う。だが、あまりにもそれは苦しげな表情で。

 

……沖田先生、大丈夫ですか」

 

 布団の上から身体を軽く揺すれば、沖田はぼんやりと目を開けた。そして桜司郎と目が合うなり、泣きそうな表情になる。幼子のようなそれに母性本能が擽られるのを感じつつ、思わず口角が上がった。

 

 すると、布団から腕が伸びて来たと思った瞬間、力強く腕を引き寄せられる。突然のそれに桜司郎は床に着いていた手を滑らせた。思わず沖田の胸に頬を寄せ、抱きすくめられる形となった。

 

「お、沖……ッ」

 

……行かないで」

 

 震える声が頭上から聞こえる。様子が可笑しいことに気付くと、途端に恥ずかしさよりも冷静さが勝った。沖田の胸から聞こえる鼓動は忙しなく、触れた肌はいつもよりもずっと暑い。まるで熱した湯たんぽのようだった。

 

 

「沖田先生。熱が、」

 

"桜花"さん、行かないでください……

 

 それは何のことを指しているのだろうか。あまりにも切実なそれに胸が痛んだ。夢と現実の狭間を彷徨っているのか、のように何度も行かないでと繰り返す。

 

 

「沖田先生……。私は此処にいますよ。今、冷やすものと山崎さんを呼んで来ます」

 

 そう言いつつ腕から逃れると、桜司郎は部屋を出ていった。沖田はその背を追うように腕を伸ばす。

 

 

 身体は重だるく、動かない。外気とは反対に吐く息が熱かった。伸ばした腕を顔の上に置く。

 

 その瞼の裏にはある光景が浮かんでいた。

 

 

───雪の上に飛び散る鮮血と崩れゆく小さく細い身体。地に伏せたまま動かなかった。そしてあろうことか、それは連れ去られていく。

 

 

 何度呼び掛けても声は届かない。己の無力さに打ちのめされそうになった。

 

 やがて桜司郎に連れられた山崎が部屋に入ってくる。手首や首の脈を取った。

 

「酷い熱や。汗もぎょうさんかいとる。まずは着替えや。湯を桶に張って来てくれんか」