「色男な上に多忙な人じゃけんそりゃ
「色男な上に多忙な人じゃけんそりゃ気苦労は絶えんやろう。そうか,今まで頑張り過ぎたんやな。それやのに今回も無理して来てくれて。みんなが三津さんを大事に想う理由が分かるが。
大役担ったき帰ったらみんなに褒めてもらい。」
中岡はぽんぽんと優しく肩を二回叩いた。その労いの言葉が胸に沁みて三津はまた襟巻に顔を隠して頷いた。
『重い……。』
微かに射し込む日の光と全身にのしかかる重みで桂は目を覚ました。
「……三津?」 【BOTOX 去皺針】2-7天消除動態紋 - Cutis
起き上がって隣りを見るがそこに三津の姿はなかったがそれは予想がついていた。
「これは……。三津の仕業だね……。」
体にかかった重みは何枚も重ねて被せられた布団だった。裸で寝た自分が風邪を引かないように気遣ったんだろう。枕元にはきっちり整えられた着物。
「全く……。私の心掴んで離さないんだから。責任は取ってもらうよ。」
桂は不敵に笑みを浮かべながら着物に手を通した。
「……やっぱり真っ直ぐ萩に!」
「何言っちゅうんが!せっかくここまで来たんやき報告ぐらいして帰ったらええやろ!」
船旅を終えて長州に着いたはいいが阿弥陀寺を前に三津は怖気づいた。
中岡は萩に帰る!と言う三津の手を掴んで引きずりながら阿弥陀寺に突撃した。
「御免くださーい!」
中岡が玄関から声をかけるとセツの元気な声で返事が聞こえた。三津はそれだけで胸が苦しくなって泣きそうだった。屯所を飛び出す前に“おにぎり食べり”と声をかけてもらったのが最後だった。
「はーいどちら様で……。あら!中岡さん!えっ?お三津ちゃん……?」
満面の笑顔で中岡を見たセツがその後に居る三津に気付いて目を丸く見開いた。
「ご無沙汰しております……。あの……ごめんなさい……!」
三津は体を折り曲げて頭を下げた。
「何を謝っちょるん?お帰り,寒かったやろ?中で暖まり!みんな待っちょったけぇ喜ぶわ!早よ!中岡さんも入って!」
セツは二人の手をぐいぐい引っ張って早く早くと急かした。
「お客様?」
そこへひょっこり顔を出した幾松は三津の姿を見るとすぐに駆け寄ってその存在を確認するかのようにぺたぺたと顔や体に触った。
「萩に帰るっちゅうてきかんけん無理矢理引っ張って来たが。行きも急かして帰りも急いだけん少し休ませてやってくれんかの。」
中岡はそっと三津の背中を押して中に踏み込ませた。
「中岡さんもゆっくりしはったらええの。待っててすぐにみんな呼んでくる。お三津ちゃん,男共めっちゃ寂しがっとったから覚悟しときや。」
幾松はにやりと笑うと高杉達を呼びに走って行った。
「ささっ!お茶でも飲んで休み!」
セツは二人を客間に通して火鉢にあたらせた。
「お三津ちゃんまだ寒い?もう一つ火鉢用意する?」
部屋に入りお茶も飲んでだいぶと温もったはずなのに襟巻を外さないからセツは首を傾げた。
「あっやっ!お気遣いなく!」
あたふたする三津を中岡はくすくす笑った。それを三津は横目で睨むが恥ずかしさが勝って俯いた。
そこへ慌ただしい足音が複数近付いて来た。
「三津さん!?」
障子を豪快に開け放したのは高杉だった。その後ろに伊藤や山縣,入江と赤禰が続いていた。
「あっ……ごっご無沙汰してっ!」
頭を下げようとしたが気付けば一瞬で高杉の腕に抱きしめられていた。
「よう戻った。京までご苦労やった。巻き込んですまん。それと……ありがとう。」
高杉の肩越しに穏やかに自分を見つめるみんなの顔を見て三津の涙腺は崩壊した。